臓腑病機三、定式化-肝と鬱と情志② |
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三、臓腑病機定式化の時期-4
定式化のふたつめの例として
(二)肝と鬱と情志・・・十七世紀半ば以降に定式化・・・つづき
(3) 明以後
①《鬱と肝》・・・趙献可と『医方集解』
②《情志と鬱と肝》・・・情志三鬱論
(4) 清
(5) まとめ・・・鬱と肝と情志
(3) 明以後
・・・・肝と鬱・情志の結びつく、肝の地位が高まる(全身気機調節)
①《鬱と肝》
・・・趙献可と『医方集解』は木鬱(肝)を強調
趙献可は、「木鬱を治すことで五鬱を皆治療できる。」とし、逍遥散を肝鬱の方剤とした。
『医貫』(1617刊)巻之二・鬱病論「法治其木鬱、而諸鬱皆因而愈。一法者何。逍遙散是也」
『医方集解』 (1682)が和解剤に逍遥散をのせ、趙献可の説を引用した。
『医方集解』は現代中医学の方剤分類の、モデルとなった。
(参考)『医方集解』の和解剤と理気剤(*)
巻上之六・和解剤には、①少陽の気機失調と、が多い。
②肝と脾胃の失調に対する方剤
巻中七・理気剤には、かつての諸気や気門に分類されていた①情志の乱れによる気機失調に対する方剤と、が多い。
②全般的な気の升降出入失調にかかわる東垣の補中益気湯や丹渓の越鞠丸などの方剤
(*)・○○剤という方剤分類の仕方は『玉機微義』などにあるが、あまり多くはない。
②《情志と鬱と肝》
・・・情志三鬱論
張景岳は、『景岳全書』(1640)
「論情志三鬱証治」で、情志の失調と鬱の関係を論じた。
巻十九・鬱証
「凡五気之鬱、則諸病皆有、此因病而鬱也。
至若情志之鬱、則総由乎心、此因鬱而病也。」
1「病によって鬱す」場合と
2「情志の鬱によって病む」場合があると述べた後に、
怒鬱・思鬱・憂鬱という情志にかかわる鬱の三証について、彼独自の病機・治法論を詳説している。
このうち思鬱・憂鬱では、心・脾・胃・肺などの複数の臓が、それぞれ様々に関わっている。
それに比べて怒鬱では、「肝」との関係が特に強調されているように思える。
(参考)・胆鬱について明代には孫一奎が『赤水玄珠』鬱証門に胆鬱を加えている。
今日の中医診断学において胆気虚や心胆虚怯などと呼ばれている、臨床的には心血不足などによる正気の虚と、肝鬱による実邪の錯綜した病能があるが、彼はその一端を、鬱とのかかわりで捉えていたと思われる。
しかしまだ肝と鬱を特に強く関連付けてはいない。
(4) 清
ついに清末には肝胆(木気)の地位が高まり《全身の気機の調整をする》と考えられるようになった。
周学海(清)『読医随筆』 (1891)
巻四証治類・平肝者舒肝也非伐肝也
「故凡十二経之気化、皆必藉肝胆之気化以鼓舞之、始能調暢而不病。」
(5) まとめ・・・鬱と肝と情志
《情志と鬱と肝のかかわり方の変化》
元末~明初までの説
①七気・九気・諸気・気門
②臓腑鬱發(三因方)
③五鬱(運気論)
④気血痰鬱論(丹渓)・六鬱(載原礼)
明代半ば以後①から④に基づき折衷・省略
→⑤趙献可(逍遥散)・⑥張景岳(情志三鬱論)
→⑦医方集解
《代表的な文献・人物など》
気機失調+情志・・・・・・・・七気・九気、緒気、気門
気機失調+情志+鬱・・・・「七情人之常性、動之則先自臓腑鬱發」(三因方)
気機失調+鬱・・・・・・・・・・「人身諸病、多生于鬱」(丹渓)
気機失調+鬱+肝・・・・・・・趙献可(逍遥散)
気機失調+情志+鬱+(肝)・・・情志三鬱論(張景岳)
気機失調+情志+鬱+肝・・・・・現代の中医基礎理論
情志の過剰が火化・・・・劉河間
肝以外の臓腑の鬱・・・・心気鬱結(三因方)、胆鬱(孫一奎)
参考・『不居集』1739
巻十八七情内鬱には、ここに述べた次第の一部が(趙献可の鬱論や情志三鬱論をふくめ)短くまとめられている。