このままでは漢方は確実になくなってしまう・・・渡辺賢治 |
渡辺賢治
『日本人が知らない漢方の力』祥伝社2012/2刊
第五章「漢方」存続の危機
の目次を抜粋し、内容の一部を抜書きした。
生藥・医療実践のウハウ・教育システム・資格制度などを含めた医療資源としての現代中医学が、“超限戦”(関岡英之『中国を拒否できない日本』ちくま新書2011)における
資源戦・貿易戦カードとして、存在感を増してきた。
第五章「漢方」存続の危機
漢方薬に保険がきかなくなる?
生藥が手に入らない今漢方は「生藥資源の枯渇」という三つの理由から存亡の危機にある。
「中国が狙う『中医学』標準化」
「国民の無関心」
「生藥資源戦争」になってしまうのか食料自給率が40%前後で問題視されているけれども、生薬の自給率ははるかに低い。
日本漢方生薬の2008年度のデータによると、日本の使用される生薬のうち、国内産は重量ベースで12%に過ぎない。
・・・大部分が海外からの輸入なのだが、全体の83%が中国からの輸入である。・・・
生薬248品目のうち、113品目は100%中国からの輸入だった。
・・・中国は世界最大の生薬生産国である。・・・
しかしレアアースの例を引くまでもなく、製品に必要不可欠な原材料は、他国とのさまざまな交渉の際の手段となる。
「薬価の壁-工業製品の西洋薬と同じ基準でいいのか」漢方薬の薬価は法外なほど安い。・・・
新薬の薬価は高く設定され、二年ごとに改定されて少しずつ安くなっていく。・・・
漢方薬の原料となる生薬は農産物だったり採取による天然の産品だったりする。
このように「時価」であるはずの漢方薬なのに、工業製品である西洋薬と同じ仕組みになっているのだ。・・・
この二十年以上医療用漢方製剤の新薬は出ていない。
その結果、あるメーカーの医療用漢方エキス製剤は、この間に36%も薬価が下がっている。
つぎつぎと撤退する漢方薬メーカー甘草を例にとると、2000年に21円だった薬価が、2010年には15円になっている。
しかも原料のほぼ100%を中国に頼っているので、輸入価格は高騰しているのである。
・・・もはや医療用の煎じ薬は「風前の灯火」に近い。
漢方薬は“安すぎる”インフルエンザ治療に使う麻黄湯は、成人一日分で約65円、葛根湯は約73円と非常に安い。
タミフルが1日分618円だから、きわめて安上がりだ。
・・・ほとんどの漢方薬の薬価は30~40年前、生薬は50年近くも前に決められたところからスタートしている。
「薬価」問題を解決するには2012年は薬価改定には間に合わないけれども、2年後に向けて、、広くこの現実を考えて、声を上げていただきたい・・・
生藥生産にも日本の技術が活かせる
生藥栽培の再生は「農」の再生に重なる
必要なのは国家戦略結局、問題は「漢方を日本としてどうとらえて推進していくのか」という国家の戦略眼が問われているのである。
国際標準化を狙う中国日本の厚労省は、医事法があるから中医師による診療が認められることはあり得ないというけれども、こうしたことは政治決着で簡単に変わってしまう。
「レアアースの日本向け輸出の優遇と引き替えに、中医師ライセンスを認めろ」と要求されたりすると、どうなるかはわからない。
伝統医学の覇権争いにしてはならない
日本人の「無関心」が漢方を滅ぼす
漢方を国民の医療として残すかどうか私としては日本の素晴らしい医学である漢方を広めたいし、世界中でもっと活用できるよう、研究活動を進めたいと願っている。
しかし、漢方を守ったり振興したりする制度や組織を、目先や小手先で手直ししていたのでは、存続の危機に対処できない。それほど事態は切迫している。
このままでは漢方は確実になくなってしまう。
参考
“新しい戦争”と伝統医学の関連を考えるための参考文献
M・ハワードの研究方法を、 医療(医学)史に応用-1
3.11以後・雑感メモ-1社会構造と現代の医療、そして伝統医学など
人間とは・仁斎の「道=人」・・・参考インフルエンザワクチン
日本における現代中医学の姿
伝統医学のひとつとして、日本の鍼灸・漢方を考える