手仕事の味、温かみというか・・・沼田清の手書きの線 |
1950年代から60年代にかけての貸本漫画・劇画の世界で有名だった
『影』という本があった。
毎月出る貸本単行本で、毎回数人の作品が載っていて、A5版で250ページ前後あった。
A5版の最終号は120号(1966年)だった。
B5のコミックサイズになって4号か五号続いて廃刊になったと思う。
110号以降の常連作家に、沼田清という人がいた。
今はどうしているのだろう・・・
この人の作品の特徴は、心理描写に長けているところと、絵について言えば
一切定規による直線を使わないところだろう。
絵のタッチは劇画的な鋭角なところは無くて、手塚治虫や石森章太郎のような曲線的なものだ。
そしてさらに、背景などに一切直線を使わない。
定規による斜線やスクリーントーンも使わない、完全な手作業である。
同じ『影』の常連だったK・元美津も定規をあまり使わないが、
歩道の敷石やビルの輪郭、ドアや窓には定規を使っている。
沼田清は鉛筆の下書きには定規を使っているようだが、
ペンを入れるときは鉛筆の跡をフリーハンドでなぞって書いている。
都会のビルの雑踏も、手書きなのである。
大友克洋はしっかり定規を使っている。
このことが沼田清の作品の、独特の雰囲気を作り出している。
手仕事の味というか、温かみというか・・・