抜粋・森・伊藤 「肝気虚・肝陽虚の初歩的認識と臨床経験」 |
「肝気虚・肝陽虚の初歩的認識と臨床経験」
『THE KAMPO』21号-Vol.4.No3(1986.5)
参考文献リスト-5・・・カネボーTHE KAMPO関連
に載せた上記論文の抜粋である。
末尾に、唐宗海と張錫純の資料を添えた。
森雄材・伊藤良
「肝気虚・肝陽虚の初歩的認識と臨床経験」
肝気虚・肝陽虚の治法(p6)・・・一部に項目や番号などを補足した
肝の陽気不足に対する治法にはやや特殊な面があり、「肝は陰を体となし、陽を用となす」という特性を考慮する必要がある。
一般には以下の用薬が必要である。
《肝の陽気を補って疏泄・昇発を強める》
①補肝気・・・黄耆「甘温」で滋潤性(生津)の補気薬
補肝気の代表薬は黄耆であり、10~30gを使用する。
黄耆は「甘温」で昇発の性質を持ち、肝の特性に最も合致しているからである。
この他、人参・党参・炙甘草などの「甘温」で滋潤性(生津)の補気薬を補助的に配合する。
②補肝陽・・・「辛苦もしくは甘温」「温めて燥さず」
補肝陽の薬物は、鹿茸・兎絲子・巴戟天・鎖陽・杜仲・続断・胡芦巴などの「辛苦もしくは甘温」で「温めて燥さず」という特性を持つ補陽薬を用いる。
滋潤性のものや燥性のない薬物を使用するのは、「肝陰」にたいする配慮で、次項の柔肝に関連する。
《柔肝の薬物を必ず配合する》
肝陽(用)は肝陰(体)をもとに生じ、肝陽の不足は疏泄低下によって肝陰を不足させ、肝陰の不足は肝陽の失調を引き起こすので、「体を補いもって用を助く」という観点が非常に重要である。
「陰生ずれば陽長ず」
「柔肝」とは肝血・肝陰を補うことにより肝陽を調整し、昇発・疏泄を正常化させることに相当する。
柔肝の薬物は、補肝血・補肝陰の効能をもつ当帰・白芍・熟地黄・可首烏・枸杞子・山茱萸・丹参などである。
《他の補助薬を配合する》
疏泄の低下に伴い気血の停滞が生じる(虚滞)ので、枳殻・厚朴などの緩和な理気藥や桂枝・生姜・細辛などの通陽薬を少量配合する。
肝陽虚で寒証が強い場合には、附子・乾姜・肉桂・当帰などの辛温散寒の薬物を配合する。
この場合、辛温が過度になるのを防止する目的で、少量の黄連を反佐として加えることもある。
尚、疏泄・昇発を促進する意味で、柴胡・升麻・鬱金・香附子などを配合してもよいが、疏泄を促すことにより、ので、必ず大量の補気薬とともに用い、少量にとどめ慎重にすべきである。
かえって不足した肝気をより虚すことにもなる
以上の用薬の原則にもとづくと、代表的な補肝気・補肝陽の方剤は次のようになる。
《補肝気の方剤》黄耆建中湯:黄耆・炙甘草・白芍・桂枝・生姜・大棗・膠飴
益気補肝湯(経験方):黄耆・党参・白芍・枳実・厚朴・炙甘草
エキス剤で対応するには、
黄耆建中湯・
桂枝加芍藥湯・
小建中湯・当
帰建中湯などに、
黄耆エキスあるいは
黄耆末を10g已上配合して使用するとよい。
《補肝陽の方剤》温陽補肝湯:黄耆・党参・白芍・肉蓯蓉・巴戟天・杜仲・附子・枳実・胡芦巴・黄連エキス剤では対応しがたい。
《加減》病能に応じて以下の加減を行う。
脾虚の食欲不振・腹滿感・泥状~水様便などを伴うときは、
白朮・山薬・茯苓などを加える。
陰虚の虚熱を伴うときには、生地黄・玄参・知母などを加える。
疏泄低下による血瘀を伴うときは、丹参・紅花・桃仁・地竜などを加える。
虚陽浮越でのぼせ・頬部紅潮・口乾などを伴うときには、龍骨・牡蛎・石決明などを加える。
〔参考〕
唐宗海
『血証論』(1884)吐血「又有肝経気虚、臓寒魂怯、精神耗散、桂甘龍牡湯」
張錫純
『医学衷中参西録』黄耆解「愚自臨床以来、凡肝気虚弱不能条達、用一切補肝之薬不効、重用黄耆爲主。」
喩昌
『医門法律』1658(中国中医藥出版2002)
巻六・虚労門陳臓器諸虚用薬凡例p293-294 ここには、①「虚而・・・」という場合の23加方、
②五臓の虚に胆気不足を加えた、6加方、そして、
③神昏不足と労瘵兼痰積の二つの加方が載っている。
「虚而驚悸不安、加龍骨、沙參、紫石英、小草、;
若冷、則用紫石英、小草、
若客熱、則用沙參、龍歯;
不冷不熱皆用之。
①肺気不足、加二冬、五味子。
②心気不足、加人参、茯苓、昌蒲。
③肝気不足、加天麻、川芎。
④脾気不足、加白朮、白芍、益智。
⑤腎気不足、加熟地、遠志、丹皮。
⑥胆気不足、加細辛、酸棗仁、地兪。」