古い虚実分類・・・実熱と虚冷『済生方』 |
その昔、
臓腑の虚実分類は、実熱と虚冷(寒)という組み合わせだけの時代があった。
肝虚は、肝気虚寒
肝実は、肝気実熱
胆虚は、胆気虚冷
胆実は、胆気実熱
現在の診断学における「肝気虚」に、
昔の肝気虚寒の用薬方(辛温・・・当帰、細辛、桂心など*)を無条件に用いるべきではないだろう。
肝気実熱には、赤芍を使っている。白と赤を使い分けている。
一方、胆虚には、
虚冷・実熱ともに地黄(熟または干)を加えている。
胆虚は、腑虚とはいえ
その根底には、臓の虚も潜んでいそうな感じだ。
*末尾の参考文献も参照のこと
厳用和『済生方』(1253)
五臓門・肝胆虚実論治(修治と薬量は省略)
「夫肝者、足厥陰之経、位居東方、属乎甲乙木、・・・謀慮過制、喜怒不摂、疲労之極、擾乱其経、因其虚実、由是寒熱見焉。
方其虚也、虚則生寒、寒則苦脇下堅脹、時作寒熱、脹満不食、
悒悒不楽、如人将捕、眼生黒花、視物不明、口苦頭痛、関節不利、
筋脉攣縮、爪甲干枯、喜怒悲恐、不得太息、
診其脉沈細而滑者、皆虚寒之候也。
及其実也、実則生熱、熱則心堅満、両脇下痛、痛引小腹、
冷人喜怒気逆、頭暈眦赤、悒悒先寒後熱、頸直背強、筋急不得伸、
診其脉浮大而数者、皆実熱之候也。
・・・治之之法、当分虚実冷熱而調之、以平爲期。
柏子仁湯・治肝気虚寒、両脇脹満、筋脉拘急、腰、膝、小腹痛、面青口噤。
(柏子仁、白芍薬、防風、茯神、当帰、細辛、桂心、甘草)
柴胡散・治肝気実熱、頭痛目眩、眼目赤痛、胸中煩悶、夢寐驚恐、肢節不利。
(柴胡、地骨皮、玄参、レイ羊角、甘菊花、赤芍藥、黄芩、甘草)
茯神湯・治胆気虚冷、頭痛目眩、心神恐畏不能独居、胸中満悶。
(茯神、酸棗仁、黄耆、白芍藥、五味子、柏子仁、桂心、熟地黄、人参、甘草)
酸棗仁丸・治胆気実熱、不得睡、神思不安。
(茯神、酸棗仁、遠志、柏子仁、防風、生地黄、枳殻、青竹茹)」
【参考】
『西谿書屋夜語録』肝寒肝虚等論治(『王旭高医学遺書六種』学苑出版1996)
「一法曰:温肝。・・・肉桂、呉萸、蜀椒・・・。
一法曰:補肝。・・・制首烏、兎絲子、枸杞、棗仁、萸肉、脂麻、沙苑蒺藜。
一法曰:鎮肝。如石決明、牡蛎、龍骨。龍歯、金箔、青鉛、代赭石、磁石之類。
一法曰:斂肝。如烏梅、白芍、木瓜。
一法曰:補肝陰。地黄、白芍、烏梅。
一法曰:補肝陽。肉桂、川椒、蓯蓉。
一法曰:補肝血。当帰、川断、牛膝、川芎。
一法曰:補肝気。天麻、白朮、菊花、生姜、細辛、杜仲、羊肝。」<
喩昌
『医門法律』1658(中国中医藥出版2002)
巻六・虚労門陳臓器諸虚用薬凡例p293-294 ここには、
①「虚而・・・」という場合の23加方、
②五臓の虚に胆気不足を加えた、6加方、そして、
③神昏不足と労瘵兼痰積の二つの加方が載っている。「虚而驚悸不安、加龍骨、沙參、紫石英、小草、;
若冷、則用紫石英、小草、
若客熱、則用沙參、龍歯;
不冷不熱皆用之。
①肺気不足、加二冬、五味子。
②心気不足、加人参、茯苓、昌蒲。
③肝気不足、加天麻、川芎。
④脾気不足、加白朮、白芍、益智。
⑤腎気不足、加熟地、遠志、丹皮。
⑥胆気不足、加細辛、酸棗仁、地兪。」