《重層構造の人間について》 |
ふたつの「分け方」「階層化の方法」がある。
①人間を存在様式に応じて、層構造(四層)で見る。
(古代に共通する見方)
②生きた状態の人間を、
気の深浅・粗密に応じて五層に分ける。(中国独自の見方)
(1) 四層の人間・・・身体・生命力・感情知覚・思考---(古代に共通する見方)
1肉体(物=狭義の気)、という、少なくとも三層から四層にわたって人間を捉えている。
2生命力(生、植物の層)、
3感情と知覚(動物の層)、
4思考(人独自の層)
中国では荀子(先秦時代)や朱子(宋)にみられ、古代ギリシアのアリストテレスにもみられる。
(ただし、中国ではあらゆる存在レベルはひとつの気の異なった側面・相(phase)であるのに対し、アリストテレスの場合は、素材とアニマは本質的に異なった存在である。)
現代医学は、社会や自然環境から分離した、物質としての人間(肉体)のみを扱う。
たとえば手術室では、自然環境から隔離され、麻酔で意識がなくなった植物的状態の人間を扱うが、西洋医学は生命力という概念を否定するので、物質としての人間を扱うことになる。
*参考資料・「鍼灸のあつかう身体とは―人間と身体をどのように見るか」『鍼灸OSAKA』(105号2012/6)より層構造の人間(human being as layer system)
(2)生きた身体に関しては、五層の「深さ・密度」を想定する---(中国独自の見方)
皮毛・血脉・肌肉・筋腱・骨髓の順で、気の密度は高くなる。
密度の低い粗な気は、変化が速い。
つまり、損傷も速いし、回復も速い。
体の最外表は皮毛だが、体表からは「熱」が放射され、腠理からは「汗」などの気が出ている。
皮毛の外にも「衛気」がめぐっている。敏感な人は、手のひらや物を体に近づけると、皮膚に触れる前に何らかの感覚を覚える。
したがって、皮膚表面から「外の空間」も、人の気の圏内である。
【各層の特徴】
①皮毛は「肺」が主り、呼吸に左右され、気の変化が最も速い。ほとんど瞬間に変化する。
②血脉は「心」が主り、流動性があるので次いで変化が速い。
血脉はあらゆる層に行きわたるが、肌肉に最も多い。
③肌肉は「脾」が主り、ふつう身体で最も量が多い気の層である。
肌肉は津液や血を多く含み、飲食(後天の気)の量や運動量によって、数日単位で変化する。
④筋腱は「肝」が主り、骨の周りにあり身体の深くにある。
血によって養われ、密度も高く変化には時間がかかる。
⑤骨随は「腎」が主り、硬く密度が最も大きい。
精と血によって養われる。変化にはもっとも多くの時間がかかる。
【鍼灸とのかかわり】
鍼を刺さずに触れただけでも、人の気に影響を与えることができる。
肌を圧迫すると、圧迫した深さの気に影響を与えることができる。
鍼は刺した深さの気に影響を与える。
押手(普通は左手)の役割は大きい。
指先の爪周囲(井穴)や、手足の大関節周囲(原穴)は、皮毛の下にわずかの血脉と肌肉・筋腱の層があって、すぐに骨随に達する。
したがってわずかな刺激で、骨髓に至る全身の各層に影響を与えやすい。