アーサー・ケストラー『ユダヤ人とは誰か―第十三支族』 |
帯には
「1500万ユダヤ人の9割(東欧系ユダヤ人)のルーツはイスラエル=パレスチナではない」
と書かれている。
まだ中古で手に入る。
実質的な禁書にならないうちに、読むべきだろう。
松岡正剛氏の「千夜千冊」という書評ページに取り上げられているので、参考として一部コピーした。(一部改行した。強調は引用者)
以下引用
・・・本書の原題はなかなか意味深長である。『第十三支族』となっていて、アシュケナージ(アシュケナージーム)のユダヤ人、すなわちカザール(ハザール)系のユダヤ人の動向を解明している。邦題『ユダヤ人とは誰か』から予想されるような、“あのユダヤ人”をめぐる全般史ではない。とりわけスファルディ(セファルディーム)を扱ってはいない。アシュケナージだけである。
しかし第693夜・第842夜にも書いておいたように、近代以降のユダヤ人問題を理解するには、このアシュケナージをこそ見る必要がある。これまであまり議論されてこなかったにもかかわらず、最も重要な動向を秘めている。
ただし、ケストラーの本書だけではこの動向の全貌は見えない。そこでごく最近刊行されたハイコ・ハウマンの詳細な『東方ユダヤ人の歴史』(鳥影社)をこれに交差させ、これらを補うためにシーセル・ロスの『ユダヤ人の歴史』(みすず書房)やマックス・ディモントの『ユダヤ人』上下巻(朝日新聞社)などを下敷きにした。
簡単におさらいをしておくと、今日のユダヤ人には大きく2種類あるいは3種類がある。日本人のわれわれはこの相違がよくわかっていない。
ひとつは「スファラディ」(スファルディ)のユダヤ人で、旧約聖書にアブラハム、イサク、ヤコブの子孫として歴史に登場する「モーセの民」である。スペインを意味するヘブライ語「スファラッド」を語源とする。
これがふつうは“本来のユダヤ人”だとみなされている。しかし、かれらは数度にわたるディアスポラ(離散)にあって、1492年までは主としてイベリア半島に定住していた。ここでかれらはスペイン語を改竄した「ラディノ語」をつくる。が、イスパニアでカトリックの力が強くなると(いわゆるレコンキスタ)、主要部族は北アフリカ、オランダ、フランス南部に移動した。
この移動部隊の多くはキリスト教徒と融合しながら生き延びた。この部隊の“隠れユダヤ人”たちが「マラーノ」である。スピノザやレンブラントはポルトガル系のマラーノの直系だった(第842夜)。
もうひとつは「アシュケナージ」のユダヤ人で、その多くは東ヨーロッパで多数のコミュニティをつくっていたのだが、ロシアのポグロムやドイツのホロコーストで迫害され、西ヨーロッパあるいはアメリカに移住した。
アシュケナージとは、ドイツを意味するヘブライ語の「アシュケナズ」から派生した呼称である。
このアシュケナージはもともとはカザール人と重なっていた。かれらはやがて東欧に動いてドイツ語を改竄して「イディッシュ語」をつくった。
いま、世界中のユダヤ人は1500万人ほどいるというが、そのうちの約90パーセントはアシュケナージだといわれる。しかし、アシュケナージは本来のユダヤ人なのかという問題がある。
さらに「ミズラヒ」と呼ばれるユダヤ人がいる。しばしばスファラディに含まれて語られることも多いのだが、その一部がアジアに流れていったことに特徴がある。もっとも今日のイスラエルにはスファラディとミズラヒがほぼ半分すづ居住する。
ぼくは長らく、「さまよえるユダヤ人」の歴史や動向や思想に関心をもってきた。最初は高校時代に読んだ石上玄一郎の『彷徨えるユダヤ人』(いまはレグルス文庫に入っている)からだったろうか。
その後、ユダヤの歴史と思想に惹かれてずいぶんいろいろな書物を渉猟してきたが、この「さまよえるユダヤ人」が今日の世界の大多数を占めるユダヤ人ではなかったということは、ケストラーを読むまでは知らなかった。・・・