咳嗽(兼C.S-化学物質過敏症) |
2017/11/18高知中国医学研究会・症例
【患者】女性・35歳・中肉中背、2歳の子供育児中。
【初診】10月28日
【主訴】咳嗽(カゼのあと、咳がひどく、一度出ると止まらない。)
【経過】
二週間前に子供から、うつされて発熱・咽痛・咳などの症状があったが、熱や咽は収まり、咳も次第に減ってよくなりつつあった。
ところが三~四日前から次第に昼も夜も咳がひどくなってきた。
ここ数日はに夜間も咳が続くため、眠れない。
痰は少しあるが、多くはない。
吸う息が苦しい。
一旦良くなっていた咳が悪化した原因に心当たりがあるかどうか問う。
答え「一週間ほど前に夫がパーマをかけた。パーマ液(?)の臭いがなかなか消えず、吸うと苦しい。C.Sだから影響があるかも・・・。今は別の部屋で寝ている。」
【既往歴】
二年前(33歳)、C.S(化学物質過敏症)およびE.S(電磁波過敏症)と診断される(新築住宅の下見に行き発症)。
CS・・・Chemical Sensitivity化学物質過敏症
MCS・・Multiple Chemical Sensitivity:多種化学物質過敏状態
ES・・・Electromagnetic Sensitivity電磁波過敏症
EHS・・Electromagnetic Hypersensitivity
【四診】
1望診眠れてないのでやや疲弊した様子だが、神は清。
目が充血している。
舌尖紅、舌尖紅点(口渇あり)
2聞診声はしっかりしている。
時々せき込むが、痰鳴はない。
3問診睡眠21.00~5.00(咳で断眠多々)。
盗汗あり。
飲食・添加物には気をつけている。
C.S発症後一年あまり玄米菜食にしていたが、最近は普通食にして動物性のものも食べる。
便通良い。
生理・・・産後まだない。
4切診脈・やや滑(66/分)
腹・心下やや緊
【診断】
1弁病・・・・・・咳嗽(表証はなし)
2弁証・・・・・・肺熱
3治則(戦略)・・・去邪を主とする。
(まず去邪して睡眠を確保、後に虚があれば補う)
4治法(戦術)・・・清肺止咳・養陰
【治療】
*ほぼ全ての患者に、まず理気・健脾・降気養陰(肝兪・脾兪・大腸兪の接触)してのち個別の配穴手技をする。
1配穴*・・・尺沢、照海
2手技・・・ステンレス1寸2番①尺沢刺入し呼吸に合わせて堤挿。②照海
先に清熱し、後に養陰。
手技中に何度か深呼吸をしてもらい、呼吸の苦しさが軽減するのを確認する。
心下の緊張の緩和も、確認する。
最初は、圧痛・硬結の強い側から行う。
十分に効果が出れば、片側だけで終える。刺入せず接触で補う。
【経過】
一診10/28土
脈滑(脈速平)、舌紅、舌尖紅点、口渇。
治療後、呼吸楽になり、心下の緊張無くなる。
10/28の夜、盗汗無くなる。セキはでている。
(尺沢・照海)
二診10/30月
脈滑、舌紅。紅点やや減。心下の緊張無し。
心下の緊張は無くなった。
夫のパーマ、まだ臭う。
10/29(日)の昼咳は出ていたが、夜には咳が出なくなり眠れた。
盗汗無し。
呼気が少し苦しい。
(尺沢・照海)
三診11/7火
脈緩、舌紅、紅点さらに減。中脘付近に緊張。
パーマのにおい大分減った。
10/30月から11/2木まで昼夜ともに咳なし。
夜も眠れた。盗汗なし。
子供がまた、咳している。週の前半、子供の世話でくたびれた。
11/3金から、ひどくはないが夜間少し咳が出る(約10分くらい続く)。
黄色い鼻水が出始めた。時々鼻閉。
吸う息が少し苦しい。
(尺沢・照海加、前頂・・・鼻閉と黄鼻汁に対応)
四診11/14火
脈緩、舌淡紅。紅点なし。腹の緊張なし。
パーマ臭わなくなった。
咳なし。鼻汁なし。
最近寒くなって、寒気に当たると夜少し咳が出る。
咽が少しヒリヒリ。
吸う息が少し苦しい。
(尺沢・照海)
【考察】
一、経過について
①急な悪化
治りつつあった風邪の症状が、数日前から悪化している。何かしら憎悪因子あるものなので、確かめる必要がある。この症例の場合はCSの既往があり、何かしらの化学物質の暴露を疑う。
②治療効果
普通、肺熱や肺の痰熱の場合、効果は短時間(数分から数時間)で現れることが多い。
しかし今回は、治療当日と翌日の日中は咳が続き、翌日の夜から咳が止まった。これは、外邪(夫のパーマの臭い)が二診10/30(月)の時点でも影響していたことに加え、素体に精血不足の傾向があったせいではないかと考える。
③精血不足の疑い
CS発症後一年あまり玄米菜食をしていたことや、産後二年半ながらいまだ生理がないことなどから、或程度の精血不足(気陰両虚)はあるかもしれない。
第三診で、疲労により軽度ながら夜間の咳が再発している。一般に虚熱による咳は、実熱ほど激しくはない。
二、手技と腹診
①尺沢の補寫(呼吸と堤挿)
補法(吸気に従い挿)・・・養陰・止咳平喘
瀉法(呼気に従い堤)・・・清肺化痰(肺熱も痰も取れる。痰が多ければ、内関等を加える。)
②咳嗽や喘息の腹と、深呼吸
心下が緊張していることが多い。
深呼吸すると呼気もしくは吸気が苦しい、あるいは深呼吸で咳こむことが多い。
呼吸が楽になり、心下の緊張が緩和されると、尺沢による平喘止咳の効果は期待できる。
【参考】CS、ESなどについて
①CS参考文献
1柳沢・石川・宮田『化学物質過敏症』文春新書2002
2近藤博一『知っていますか?シックスクール』農文協2013
3岡田幹治『香害‐そのニオイから身を守るには』株・金曜社2017
②ES参考文献
1『ケータイ天国、電磁波地獄』(週刊金曜日別冊ブックレット1998)
2矢部武『携帯電磁波の人体影響』集英社新書2010
3古庄弘枝『スマホ汚染』鳥影社2015
4村瀬 雅俊「電磁波の生体への影響一 ホルモン作用仮説の提唱 一」
京都大学基礎物理学研究所 非平衡系物理学
論文のpdfが以下からダウンロードできる
http://ci.nii.ac.jp/els/110006409313.pdf?id=ART0008411779&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1404652830&cp
5村瀬雅俊「電磁波と生体への影響-作用機序解明をめざす統合生命科学-」
九峰の備忘録magicsam.exblog.jp 2014年 07月 06日「電磁波・・・メモ-1村瀬雅俊」にリンクあり
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/~masatoshi.murase/gyoseki/g4-7.pdf
6ニック・ベギーチ『電子洗脳‐あなたの脳も攻撃されている』成甲書房2011
③低周波音被害Low-frequency sound damage
8~40ヘルツ(高低差約10デシベル)の低周波音に長期間曝露して発生?
工事の騒音・冷蔵庫・空調機・ポンプ・風力発電風車・エコキュート・アイドリング音等などによる問題。症状は多彩で、個人差が大きい。(耳鳴り・頭痛・いらいらを三主徴として、自律神経失調に似た多彩な不定愁訴)
参考文献
1汐見文隆『低周波公害のはなし』晩聲社 (1994/12)
2特集「忍び寄る危機・低周波」(『あごら九州発』328号2011年3月号)