腎気上攻の文献研究Ⅱ-3 |
19葉天子
『臨床指南医案』1746
(『葉天士医案大全』中医藥出版1994)
巻二・吐血
(陰陽并虚腎気上逆) p89・・・腎虚による上逆
「馬四五・閲病原是腎虚嗽血、年分已久、腎病延伝脾胃、
遂食減腹膨、病是老労、難以速効。
行走喘促、元海无納気之権、莫以清寒理嗽、
救救収納根蔕、久進可得其益。」
巻七・痙厥
(煎厥) p382・・・下焦の陰液不足が、厥を引き起こす。
「某・煎厥者、下焦陰液枯燥、衝気上逆為厥。(腎厥)・・・背中を上る厥では、陰濁が下かから上に犯し喉にいたる。
議用咸寒降逆、血肉填陰。」
「腎厥、由背脊而升。(腎厥) ・・・頭部にまで達する逆氣
発時手足逆冷、口吐涎沫松、喉如刀刺。
蓋足少陰経循喉嚨、挟舌本、陰濁自下上犯、必循経而至。
仿許学士椒附意、通陽以泄濁陰耳。
炮附子、淡乾姜、川椒、胡芦巴、半夏、茯苓、姜汁泛丸。」
「某・腎厥、気逆至頭。玉貞丸二十粒。」
巻八・肩臂背痛p425
ここに許叔微の腎気攻背(腎気上攻)にもとづく医案が載っている。
肝濁による背痛もすぐ後に続く。
腎気上攻では許叔微の方法を宗として、先に通陽する。
許学士は『普済本事方』の許叔微で、「腎気上攻」のオリジナルは千金らしい。
衝気が背中を上がるものは督脉の病で、少陰を治す。
腹から上がるものは、厥陰を治すべき衝脈・任脈の病だ。或は陽明を填補する。
「孫二四。腎気攻背、項強、溺頻且多。
督脉不摂、腰重頭疼、難以転側。
先与通陽、宗許学士法。
川椒炒出汗三分、川桂枝一銭、川附子一銭、茯苓一銭半、生白朮一銭、生遠志一銭。
凡衝気攻痛、従背而上者、系督脉主病、治在少陰。
従腹而上者、治在厥陰。
系衝任主病、或填補陽明、此治病之宗旨也。」
「汪 (十二)・肝濁逆攻、痛至背。」
巻八・肩背臂痛の末尾にある龔商年の解説
肺と陽明(経)が肩背臂痛に責あり、肺が病むと肩背が痛む。
背は陽明の府だから、陽明に問題があると、肩の関節に問題が起こる。
(龔商年の説) p425
「肺朝百脈、肺病則不能管摂一身。
故肺兪爲病、即肩背皆痛。
又背爲陽明之府、陽明有虧、不能束筋骨、利機関、則肩垂背曲。
至于臂、經絡公会不一、而陽明十二經絡之長、臂痛亦当責是陽明。
但痛有内外両因、虚実迥異、治分気血二致、通補攸殊。」
迥ケイ・ギョウjiongはるか・とおい/
攸ユウyouところ/
殊shuちがう・ことなる
前記の後、内外・虚実・気血・通補を弁別して、以下の病機と治法を挙げている。
(治法は省略)
①營虚脈絡失養、風動筋急
②勞倦傷陽、脈絡凝塞
③陽明気衰、厥陰風動
④血虚風動者、因陽明絡虚、受肝臓風陽之擾
⑤失血背痛者、其虚亦在陽明
⑥若腎気上逆、則督虚為主病
⑦至于口鼻吸受寒冷、阻鬱気隧、痛自胸引及背、宗《『内経』》諸痛皆寒之義
最後に、実証では「通則不痛」だから、さまざまな治法を使い分けよと言う。
「更有古法、如防風湯散肺兪之風、指迷丸治痰流臂痛、控涎丹治流痺牽引、
此皆従実証而治、所謂通則不痛也。
医者不過拘守一法、洞悉病源、運巧思以制方、而技于是進。」
《参考》血不養筋による左脇痛・背痛
『三家医案合刻』巻一・葉天士医案P8
(『中国医学大成・第三十六巻・医案』上海科技1990)
「新産不満百日、天暑汗出気泄、加以澡(*)浴湯蒸、
更助開発、左升陰弱無制。
遂喉痒咳逆、牽連左脇、及氣街背部皆痛。
蓋産後肝血未充、腎液未足、奇経緒脈皆怯弱、
陰虧陽熾、血不能栄養筋脉・・・」
(*)澡・あらう
20尤在涇
『金匱翼』1768(『中国医学大成・第九巻』上海科技1990)
巻五・項背痛p21
『本事方』云として、同巻二の椒附散の記事をそのまま採録し、続けて囘頭散を紹介している。
巻七・腎虚気逆
「喘因腎虚、気吸不下者、或因気自小腹下起而上逆者、但経微労。
或飢時即発、宜以六味補陰之属、壮水配火。
若足冷面熱者、須以八味安腎之属、導火帰元。
安腎丸・・・小安腎丸・・・」
21沈金鰲(きんごう)
『雑病源流犀燭』1773(中医藥出版1994)
巻八・腎病源流p115
「内証臍下有動気、按之牢若痛、其病逆気、少腹急痛、泄痢下重、足脛寒而逆」
巻二十六・肩臑肘臂腕手病源流p411
肩・臂・手など、痛む部位・病因病機に基づいて、治法と処方を列挙している。
肩は六方。臂は六経に応じて六方、病因病機に応じて十五方。
手は十三方。
この中で肩痛の処方に、腎気逆上は腎陽を補せとある。
「又有腎気逆上而痛者、必補腎壮陽。
宜・枸杞子、山萸、牛膝、補骨子」
巻二十七・胸膈背乳病源流p433膈痛の項目
虚弱の心膈痛で、乳肋肩背臥が牽引するものは元気上逆である。
痞結胸症治のあとに、脊痛・背痛・脊背強の記載があり、
脊から背に痛みが及ぶものを腎気上逆としている。
「虚弱心膈痛、牽引乳肋肩背、自汗、人多患此、元気上逆。
宜十全大補湯」
P434「先脊痛、及背与肩、是腎気上逆。
宜和気飮。」
(和気飮については、載原礼の項参照)
背痛に関しては、十五にわたる病因病機と処方を挙げているが、許叔微の椒附散は載っていない
22郭誠勛
『証治針経』1823・中医藥出版1996
巻三・肩臂背痛
「腎気攻背而項強腰重頭疼、法許学士之椒附散。
川椒、附子、桂枝、茯苓、白朮、生遠志」
23李冠仙
『清代名医医者話清華』(2007人民衛生)
李冠仙医案・気喘p278
「同郷張偉堂婦人、患瘧・・・略・・・不数剤、而病已霍然。
越明年冬十二月、偉堂又病、危殆将死、医莫能救・・・・
余往見其坐憑児上・・・胸悶、痰鳴、気急、難于平臥、已旬余日矣、神識昏沈、不能言語。
・・・略・・・医師朱某、与張甚交、以二陳湯泛丸服之、而病乃益劇。
余曰、此腎気上衝也、
緒気皆以循環周行者以順,衝逆喘急者以逆、肺不宣化、気失清降而腎気乃逆、気平則痰降、氣逆則痰升;
今痰涌気急、不能俯仰、脉甚虚数、似爲湿熱而兼陰虚、湿熱不化、阻滞気機、而腎気反以上衝、若能内気帰腎、平気降痰、則湿熱亦化而安臥自如、症雖劇当无妨也。
遂仿都気丸意、用熟地八銭、茱萸四銭、山薬四銭、丹皮三銭、澤瀉三銭、茯苓三銭、北沙參四銭、杏仁三銭、桃肉三銭、橘皮一銭、・・・・
・・・病家如所言、畳進数剤、病去七八・・・」
霍(huo` カク)はやい、にわか
《参考》腎気上逆と肝気上逆の違い
『知医必弁』1849(『中国医学大成・第四十三巻』上海科技1990)
論金匱腎気湯p23
「更有金匱腎気湯、為仲景先師之良方。
用六味地黄加車前、牛膝、肉桂、附子、治水蠱最効。
治腎気上衝、亦甚有効。
乃有某医者、素習葉氏臨床指南。
葉氏初学幼科、後学方波、与薛一瓢同時。
而其道不及、惟其人霊機活発、治病頗有聡明。
但究非儒医、所伝医案平常、虚字亦多不順。
逈(*)非喩嘉言寓意草可此。
乃某医奉為家伝、治病往々仿之。
遇聞王九峰先生、治李姓気衝於上、用金匱腎気湯、一藥而愈。
以為得有秘法、毎遇気逆上衝、治之不愈。
則投以腎気湯、往々一藥而死。
後李姓、有婦人吐血、気逆不下。
伊(*)連用腎気湯七剤。
致狂吐不止、血盡而亡。又有劉頌芬之夫人、気逆不下、伊久治無効。亦用腎気湯一服而亡。
此何以故?
蓋方名腎気湯、并非肝気湯。
腎気為至陰之臓、陰不潜陽、虚陽上衝、故用桂附引火帰原、用六味納気帰腎、自有奇効。
至某医所治者、皆肝氣也。
肝為陰中之陽臓、氣至上衝不下、其火必甚、非滋水養肝、以平之不可、而反投以桂附、火上添油。・・・(*)逈jiong全然異なる、比べ物にならない、
(*)王九峰1758-1815
伊yiこれ、かれ
24林珮琴
『類証治裁』1851・・・・・(中医藥出版1997)
巻六・腰脊腿足痛p434
ここには『雑病広要』巻三十九肩背痛の《医通》と同類の文が載っている。
「脊者、督脉及太陽経所過。
項脊常熱而痛者、陰虚也。
六味丸加鹿茸。
常寒而痛者、陽虚也。八味丸加鹿茸。」
巻六・肩背手臂痛
①腎に邪があると腎気上逆するという。又、肩背は太陽経と肺が関係する部位である。
太陽経と肺が病むと元々足が痛むものだが、腎気逆攻で足も痛むという。
P430「(経)又曰、邪在腎、則肩背痛、是腎気上逆也。
蓋肩背為太陽経所循、又為肺蔵分域、凡太陽経及肺兪爲病、固足致痛、而腎気逆攻、亦足致痛焉。」
②逆衝背痛については、腎気逆衝(挟脊而上攻)と肝濁逆衝(従腹而上攻)に分ける。
ここは『臨床指南医案』八巻・肩臂背痛における腎気上攻に類似している。
P431「腎気逆衝、挟脊而上攻背痛者、系督脉主病、治在少陰。
宜川椒、桂枝、茯苓、附子、牛膝、遠志、沈香、小茴香。
亦有肝濁逆衝、従腹而上攻背痛者、任脉主病、治在厥陰。
乾姜、川椒、桂枝、烏梅、川連、白芍、細辛、川棟肉。」
③肩背は太陽経と肺の部位であるから、それぞれに対応した処方が載っている。太陽経は、手と足で処方を分けている。
P430「故肩背痛不可回顧、此手太陽経気鬱不行、宜風藥散之。
防風通聖散。
肩背痛、脊強、腰似折、項似抜、此足太陽経気鬱不行。
羗活勝湿湯。」
25秦伯未
『中医臨床備要』1963秦伯未等合著(人民衛生2005)
十一肩背症状212背痛・p109
①風冷乗襲足太陽、
②経気血凝滞・絡脈不和、
③傷科の適応、
の三つに分類。
「背痛板滯、牽連後項、肩甲不舒、兼有惡寒、為風冷乗襲足太陽経、経脈渋滞、通用姜黄散。
・・・睡後背部酸痛、起床活動後、則漸軽減、属気血凝滞、絡脈不和。
用舒筋湯、配合按摩療法。
弯腰負重、背傷疼痛、多伴頚項引強、手指発麻、臂不能動。
応由傷科治療。」