伝統医学とGNH-⑩伝統医学と近代医学の特徴 |
一、チベット医学について
二、人間学の必要性
三、伝統医学と近代医学の特徴・・・社会基盤と制度1、社会的な基盤と伝統医学参考文献その他(1)近代以降に失われつつあるもの2、制度的な側面
(2)生活の医学としての伝統医学(1)社会的・制度医学
(2)経済の制度
(3)社会的・制度的医学としての近代医学の限界
三、伝統医学と近代医学の特徴・・・社会基盤と制度
日本に遅れること約百年にして始まった「ブータンの近代化」のあり方を見聞したことで、日本にいて普段は見逃している、近代医学と伝統医学の特徴に気が付いた。それは、①伝統医学が形成された時代の社会・経済の背景の二つである。
(社会的基盤)と、
②近代医学の制度的な側面
1、社会的な基盤と伝統医学
伝統医学と近代医学の社会基盤の違いには、産業・経済・エネルギー・生活などの分野で、次のようなものがある。(表1)
(1)近代以降に失われつつあるもの
伝統医学は近代医学が生まれる前の、農業に基盤を置く数千年にわたる農耕文明社会を土台にして生まれた。
近代という時代は、産業革命を経て、それ以前と大きく社会経済のあり方が変わった時代だ。(図参照)
伝統医学は、これらの土台があってもっとも良く機能するものであろう。
図・近代になって変化したもの①自然環境
②伝統文化・地域共同体(コミニティ)・家族制度
③住居(都市化)
④職業の形態と時間の使い方
(賃労働・規則的な勤務時間)
⑤生活習慣
(起居のリズム・食事など)
(2)生活の医学としての伝統医学
伝統医学は、生きた人間を、個人の医学・生活の医学といえる。
生活と環境まで含めて、
全体的にみることができる
反面、社会構造と病の関係についての視点は希薄である。
伝統医学が生まれた時代には、地域のコミュニティが近代に比べると良く機能していた。
伝統医学は、①個別の伝統文化・気候風土に根ざした、といえるが、
②自然の営みに沿った
③個人に対する、一対一の医学①コミュニティが機能していること、が前提になっている。
②自然の営みに適合し気候風土に沿った生活習慣が存在すること
近代以降は、その条件が次第になし崩しに変化し崩壊している。たとえば・・・
コミュニティが崩壊しつつある近代以降は、そこで共有されていた①伝統的な習慣や生活の智慧、などが失われようとしている。
②伝統医学に関する理解
伝統医学の性格①個別の伝統文化・気候風土に根ざしている伝統医学の前提
②自然の営みに沿っている
③個人に対応する、一対一の医学①コミュニティが機能していること
②自然の営み・気候風土に沿った生活習慣
2、制度的な側面
(1)社会的・制度医学
近代医学は、近代国家の誕生と共に、19世紀半ば以後に「制度化」され、「社会政策」の一環を担うものとなった。
近代医学は、近代国家の社会政策・福祉政策・衛生行政の一端を担うことで、近代社会の生み出した社会的・構造的な疾病に対応する「組織性」を持っている。
地域の共同体や大家族が分解して、それらが担っていた部分を社会保障制度によって補う必要が生まれた。
その中に「医療」や「介護」も含まれる。
(2)経済の制度・・・高コスト、高リスク
現代の医療は、高度な商品経済のなかで、「産業化」した。
「分業化」
「都市化」
生活と環境のあらゆる分野が産業化に伴って、
「商品化」され同時にされてきており、
「医療化」
「官・産・学・医の複合体」が、現代の医療を構成している。
近代医学とその基盤である近代産業を自国でまかなうには、大変にコストがかかる。
診断と治療手段は、a .機械とが中心である。
b.マニュアルそして
c.ケミカル(人工物)
近代的な病院においては、電気となしでは、医者が一人でできることは非常に限られいてる。
コンピューターと
各種のスタッフ
さらに現代の医学には、集約的・集中的な管理が必須で、その分リスクも高まる。
現代医学の土台でもある、加速する都市化と世界経済を維持するコストは、文明自体の存続をも危うくするほどになってきている。
現代の経済と医療には、図1のような相似の関係が見られる。
これらは直接的な政策によらない経済を介した、医療の制度化の一種ともいえる。
(3)社会的・制度的医学としての近代医学の限界
以上のように近・現代医学は、制度医学として多くの国で唯一の正統医学とされ、社会保障政策の一翼を担っている。
しかし近・現代医学の治療効果の有効範囲は限定されたものであり、しかもそれを維持する経済コストや環境負荷は非常に大きい。
それにもかかわらず、人の生の全てを扱おうとしているために弊害が生まれる。
老
病
死
近代国家においては「制度化された医学」は必要なものかもしれない。
しかし現代医学がその唯一の選択肢である必然性は、薄くなってきていると感じる。
参考文献その他
平山修一『現代ブータンを知るための60章』明石書店2005,4
今枝由郎『ブータン仏教から見た日本仏教』NHKブックス2005,6
山本哲士『チベット医学の世界』東方出版1996
ITMS and SCDHMR『Proceeding of Bhutan-Japan Joint Symposium on Conservation and Utilization of Himalayan Medical Resources』 2007,1,
長沢元夫『伝統医学の学び方』p273鬼神・鬼業について・績文堂1998
『医療社会学のフロンティア』世界思想社2001
高田忠典『ブータン病院便り』・・・ブータン館ホームページ来賓室
外務省ホームページ「ブータンと国民総幸福量(GNH)に関する東京シンポジウム2005(結果概要)」
NPO法人開発と未来工房『食と農から暮らしを変える、社会を変える』
(代表鎌田陽司)2006,5
ライブJ第5回「ヒマラヤの宝探し」(小川康さんの公演録)http://www.jyva.or.jp/program/live_j/live_j05_report.html