改定『通俗傷寒論』と『診病奇侅』の比較-2 |
参考・改定『通俗傷寒論』と『診病奇侅』の比較-1
兪根初『通俗傷寒論』1776と、『診病奇侅』1843に、
もう一つ、そっくりの記述がある。
以下のものである。
「凡診臍間之動、密排右三指、或左三指、以按臍之上下左右。」『通俗傷寒論』(中医古籍出版2002)
第五章傷寒診法・第四節
「腎間動気者、密排右之三指、□□□左之三指、以安臍間。」『診病奇侅』診腎(無名氏)
(医道の日本p45-石原保秀昭和十年版の復刻)
『診病奇侅』1843で多紀元堅が引用している無名氏は、
おそらく高津敬節『鍼灸溯洄集』1695刊だろうと思われる。
以下の比較資料にあるように、『診病奇侅』の「右之三指、□□□左之三指」の空白部分は、高津敬節『鍼灸溯洄集』では「右之三指襲覆左之三指」と「襲覆」となっている。
そこで高津敬節『鍼灸溯洄集』1694、を比べてみた。
多紀元堅『診腹要訣』1842、
多紀元堅『診病奇侅』1843、
兪根初『通俗傷寒論』1776
【比較資料】
①高津敬節
『鍼灸溯洄集』1694成書1695刊(船橋市西図書館所蔵)
さきにみた『診腹要訣』と『診病奇侅』の空白部分は、「襲覆」となっている
巻上・診腎
「腎間動気者密挑*1右之三指襲覆左之三指以按臍間」
「密挑右之三指襲覆左之三指」の『鍼灸溯洄集』のフリカナは、以下のとおり。
「ミギ (右)ノ三指ヲヒソカニ(密)オシ(挑)、
ヒダリ(左)ノ三指ヲオソヒ(襲)オオヒ(覆)」
②多紀元堅
a『診腹要訣』1842
「密排右之三指」のあとに二~三字分の空白がある。
臍中・診腎(無名氏)
「腎間動気者密排*2右之三指□□□左之三指以安臍間」
b『診病奇侅』1843
(医道の日本-石原保秀昭和十年版の復刻)
『診腹要訣』と同じく「密排右之三指」のあとに二~三字分の空白がある。
診腎(p45無名氏)
「腎間動気者、密排右之三指、□□□左之三指、以安臍間。」
【注】
*1挑=かかげる、かきあげる。
*2排=ならべる、ひらく、おしのける
③兪根初
『通俗傷寒論』1776第五章傷寒診法・第四節・按胸腹p151-152
(四) 臍(按腹之要)*
「凡診臍間之動、密排右三指、或左三指、
以按臍之上下左右。」
*注『通俗傷寒論』1776(中医古籍出版2002)
第五章傷寒診法・第四節・按胸腹の内容は、大きく三つに分けられる。
(項目は引用者が作成、原文には以下の項目分けは無い。)一、胸腹の区分と名称p149三診法と診断は更に四つに分けられる。
二、診法総論p149三、診法と診断p150(一) 按胸膈脇肋p150そして(四) 臍(按腹之要)の内容は大きく六つに分かれる。
(二) 按満腹p150
(三) 按虚里(按胸必先按虚里)p151
(四) 臍(按腹之要)p151-1521《臍の上下左右》このうちの3《臍の診法》に
2《保生之根》
3《臍の診法》
4《臍間動脉の診断》
5《弁仮寒仮熱》
6《生死の判別》
「凡診臍間之動、密排右三指、或左三指、以按臍之上下左右」が記載されている。
【メモ】・・・「密排」、「襲覆」と「白抜き」、オリジナルは?
①「密排」について
【挑】と【排】挑=かかげる、かきあげる。
排=ならべる、ひらく、おしのける
『診腹要訣』臍中・診腎と『診病奇侅』(医道の日本)診腎(p45無名氏)では、「密排右之三指」と【排】(ならべる、ひらく、おしのける)になっている。
『診病奇侅』(医道の日本P7)高階枳園にも、「停住三指密排診尺脉」と【密排】の用例がある。
もしかすると『鍼灸溯洄集』の【挑】は、【排】(ならべる)の誤字かもしれない。
この「密挑右之三指襲覆左之三指以按」の意味としては「右の三本指を密にして並べた上に、・・・ということだろうか。
左の三本指を覆いかぶせて按ずる。」
②「襲覆」と白抜き部分について
『鍼灸溯洄集』1695刊の「密挑右之三指襲覆左之三指」の「襲覆」は、『診腹要訣』1842と『診病奇侅』1843ではともに、「密排右之三指□□□左之三指」と、数字分の枠で囲んだ空白(白抜き)になっている。
(原本に虫食いでもあったのかもしれない)
『通俗傷寒論』1776では「密排右三指、或左三指」となっている。
意味としては、『鍼灸溯洄集』の「襲覆」はよく理解できる。
一方『通俗傷寒論』の「密排右三指、或左三指」は、
妙に必然性の無い、いい加減な記述になっている。
③オリジナルは?
はたしてこの今回取り上げた「腎間動気者、密排右之三指・・・」という文節を含む腹診記事のオリジナルは、どれなのだろう。『鍼灸溯洄集』1695それぞれ70-80年の差がある。
『通俗傷寒論』1776
『診病奇侅』1843
『鍼灸溯洄集』がオリジナルのように思えるが、あるいは何かほかに基になる引用先があったのだろうか。
(たとえば『診病奇侅』(医道の日本P7)高階枳園にも、「停住三指密排診尺脉」と【密排】の用例がある。)