フランシス・ベイコンの思想①・・・自然支配の技術としての科学(スキエンティア) |
近代の自然科学の基本思想は、イギリスの思想家フランシス・ベイコン(1561-1626)のことばによく表されている。
彼の著書『ノヴム・オルガヌム(新機関)』(1620)には、
「知と力はひとつに合一する。・・・自然はこれ〔知〕に服従することによってでなければ、征服されない。」という記載がある。
古川安氏の要約(*1)によればその思想は次のようなものである。(太字強調は引用者)
“この言明には、科学はスコラ学のように学問に終始する学問ではなく、自然を支配し変革して人間生活の改善を目指すための営みであるという「技術としての科学」「技術のための科学」のスローガンが込められている。
彼によればアダムは楽園喪失により人類に与えられるべき被造物の世界に対する支配権を失ったが、それでも人間が努力すればその支配権を取り戻して自然界を活用することができたのに、人類はおろかにもそれを放棄してしまった。
自然は気ままにさせておくよりも、技術により尋問し拷問にかけることによってより明瞭にその姿を現すのである。
中世以来、西欧知識人に大きな影響を与えているアリストテレスの哲学にはこの点、無力な空論である。これに比べて職人たちの技術の方が、はるかに人間が自然を利用し搾取することに貢献してきた。
それゆえ、鉱夫や鍛冶屋などの職人は自然探求者のモデルになるはずである。
彼は印刷術・火薬・羅針盤という三大発明が世界を大きく変革したことを読者に喚起する。
こうした技術は自然界の内奥にまだ隠されている秘密を解き明かすのに役立つ。
彼にとって、技術としての科学(スキエンティア)は自然と社会を変革する力となるのであった”
(*1)古川康『科学の社会史』(南風社1989)第二章キリスト教文化における近代科学p34
こういったF・ベイコンの自然と科学・技術に関する思想は、15-17世紀当時の自然探求者の精神を良く表している。
(くわしくは別冊文献資料・古川康『科学の社会史』第二章抜粋を参照)
18世紀以降は合理主義精神によって宗教性は払しょくされていくが、人を主体とし自然を客体とすることで、自然への支配・操作・搾取という思想 (*2)はさらに徹底されて、近代の基本思想となっていく。
この近代化された思想の影響は、15-16世紀に自然科学・文芸から始まり、17-18世紀には政治と経済へと広がった。
(*2)鯖田 豊之『肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見』参照・・・別冊資料にあり
臨床医学への影響は最も遅れて、19世紀に産業革命後の技術を得ることによって医学は近代化された。それまでは伝統医学であるギリシャ・アラブ医学(ヒポクラテス医学)が主流として行われていた(*3)。
19世紀半ば以降1870年代までには、それまでの西洋の伝統医学は主力の座を譲り、現在我々が知るような「近代医学」がとって代わっていった。
(*3)長沢元夫「医学史上の問題点」参照・・・別冊資料にあり
参考・
フランシス・ベイコンの思想①・・・自然支配の技術としての科学(スキエンティア)
フランシス・ベイコンの思想②・・・その起源
フランシス・ベイコンの思想③・・・キリスト教的自然観とベイコン以後