アミール・D・アクセル『ブルバキとグロタンディーク』 |
『ブルバキとグロタンディーク・・・The Artists and the Mathematician』(日経BP社2007)
最近は大学数学になると、入門の教科書が、
みな集合論から始まるのはなぜか不思議だったけれど、
その理由が分かった。
数学の基礎に集合論がすえられているのは、
20世紀フランスの数学者集団ブルバキの影響が大きかったのだという。
第十章には、ブルバキの中心メンバーだったアンドレ・ヴェィユが、
レヴィ・ストロースの研究していた親族関係の規則体系を、
群論によって解読*したということが出てくる。
*実際の群論の応用の説明は、山下正男『思想の中の数学的構造』ちくま学芸文庫2006Ⅰ構造の学とその応用p60以降に詳しい。
この本の元のタイトルは、
芸術家たちと数学者(The Artists and the Mathematician)というもので、
20世紀初頭から半ばにかけての、
現代科学を含む近代西洋文化が大きく変化していく時期、
ブルバキの数学と、
絵画、言語学、心理学、経済学、、物理学、文学など、様々な分野とのかかわりが描かれている。
一読の価値あり。
ちなみに,吉田 洋一・赤 攝也『数学序説』 (ちくま学芸文庫) は
遠山啓『代数的構造』(ちくま学芸文庫)は、
p108
「“エスコリアル会議”の場で、ブルバキの作による初めての論文が読まれ、それが最終稿として採用された。
それは集合論の文書で、もともと“抽象の小包”と呼ばれていたものである。
集合論は数学全体の基礎とみなされており、最初の本をこの基礎的なテーマに当てたのは、ブルバキゆえの優れたアイデアだった。
アンドレ・ヴェィユはこの本のために、今日でも広く使われている空集合の記号∅を考案した。
この記号は、ヴェィユが旅先で知ったノルウェー語のアルファベットが元になっている。
集合論のブルバキの文書によって、この新たな数学記号が導入されたことになるのだ。
この文書はまた、数学について考える上での全く新たな方法、すなわち、集合とその演算を数学全体の基礎に置くという方法を導入した。
これがのちに、1950年代に世界中の学校で始められた“新しい数学”へと繋がっていくことになる。」